FEATURE 06 · HIGGS BOSON
一瞬で姿を変える粒子を、どうやって見つけた?
ヒッグス粒子の発見から、偶然と証拠を考える
「見つけた」というからには、写真があるのでしょうか。ヒッグス粒子の場合は、少し事情が違います。生まれても、ほとんど一瞬で別の粒子へ変わってしまうからです。研究者は、そのあとに現れた粒子を調べ、膨大な記録の中から同じ特徴を探し出しました。

LEARNING GUIDE · 学びの入口
このコラムで学べること
- 短時間で別の粒子へ変わる粒子を、残った記録から調べる方法が分かる。
- 多くの衝突を比べ、偶然や別の反応と区別する理由を説明できる。
- ヒッグス場が質量に関わることと、その説明の範囲が分かる。
残った粒子の記録 → 質量の再構成 → 多くのデータで確かめる → ヒッグス場と質量、の順に読みます。硬貨の活動では、目立つ結果だけを選ばず記録全体を見ます。
まずは、すぐ変わってしまう粒子の捜索から
CERNの大型加速器LHCでは、陽子を加速して衝突させます。そのエネルギーから、ごくまれにヒッグス粒子が生まれます。ヒッグス粒子が別の粒子へ変わることを「崩壊」と呼びますが、物が割れて破片になるのと同じではありません。たとえば、光の粒子である二つの光子へ変わる場合があります。
検出器は、あとに現れた粒子のエネルギーや進む方向などを測ります。その情報を使って、もとの粒子の質量を計算します。同じくらいの質量になる出来事が予想より多く集まれば、グラフに小さな山が現れます。ただし、別の反応でも似た記録はできるので、山を見つけただけでは終われません。
「たまたま」を、どこまで疑う?
硬貨を10回投げたら表が7回でした。表が出やすい硬貨なのでしょうか。それとも、たまたまでしょうか。少ない回数の結果だけでは、決めにくいはずです。素粒子の研究でも、予想される背景のばらつきで、どの程度の山ができるかを計算します。
2012年、ATLASとCMSという二つの実験が、それぞれ新しい粒子の証拠を報告しました。その後も変わり方などを調べ、ヒッグス粒子の性質と合うことを確かめてきました。驚く結果を一度得るだけでなく、別の装置や方法で調べ続けることが、発見を支えます。
この発見が大切な理由――質量とヒッグス場
手押しの台車を想像してください。空のときと荷物を載せたときでは、動き出させたり止めたりする感覚が違います。質量は、力を受けたときの運動の変わりにくさに関わる量です。では、物質の基本となる電子やクォークには、なぜ質量があるのでしょう。
その説明の鍵が、空間に広がるヒッグス場です。電子やクォークなどは、この場との関わりによって質量をもちます。ヒッグス粒子は、その場の揺らぎとして現れる粒子です。発見は、ヒッグス場が存在することを確かめる大きな手がかりになりました。
ただし、ヒッグス場は粘り気のある液体ではなく、粒子がこすれて減速する摩擦でもありません。また、陽子や中性子の質量の大部分は、内部のクォークやグルーオンの運動と相互作用に伴うエネルギーに由来します。「ヒッグスが身の回りの重さを全部作る」と言うと、大切な部分が抜けてしまいます。
大人のための「5シグマ」の読み方
素粒子の発見でよく聞く5シグマは、統計上の基準です。背景だけで説明できるという仮定のもとで、観測されたもの以上の偏りが偶然に出る確率が、約350万分の1に相当する水準をいいます。これは「発見が間違いである確率は350万分の1」という意味ではありません。
装置のずれや分析の前提は、別に確かめる必要があります。しかも、新しい粒子があると分かることと、それが理論で予想したヒッグス粒子だと確かめることは、同じ作業ではありません。どんな粒子へ、どれくらいの割合で変わるかなどを測る研究は、発見後も続いています。
TRY & TALK · やってみる
硬貨20回の結果を、親子で持ち寄る
一回の珍しい結果と、繰り返した記録の傾向は違います。硬貨の全記録を並べ、気になる部分だけ取り出した場合に印象がどう変わるか確かめます。
- 時間の目安
- 10〜15分
- 用意するもの
- 硬貨、紙と鉛筆。2人で行います。
- 始める前に「一人20回、最後まで記録する」と決めます。それぞれ硬貨を20回投げ、表と裏を順番に書きます。
- 表が続いた場所や、表の合計を比べます。同じ硬貨でも結果が違うことはあるでしょうか。
- 40回分を合わせて眺めます。気に入った連続だけを取り出した場合と、全記録を見た場合で、受ける印象が変わるかを話します。
これは偶然によるばらつきや記録の選び方を考える活動です。表と裏が必ず半分になるわけではなく、40回で硬貨の公平さを断定したり、ヒッグス発見の5シグマを再現したりはできません。
CHECK & EXPLAIN · 確かめる
読んだことを、確かめる
衝突のあとに二つの光子を見つけたら、それだけでヒッグス粒子の証拠になる?
考えてから、解説を開く
それだけでは判断できません。二つの光子は、ヒッグス粒子以外の反応でも生まれます。
研究者は多くの衝突で光子のエネルギーと方向を記録し、元の粒子の質量を再構成します。背景の予想と比べて同じ質量付近に特徴があるかを調べ、別の崩壊のしかたや、別の実験の結果とも照らし合わせます。
もう一歩:身近な例や画像も確かめる
20回投げて表が12回。これだけで「表が出やすい硬貨」と発表してよい?
考えてから、解説を開く
まだ早いでしょう。公平な硬貨でも回数はばらつきます。結果を選り好みせず記録し、追加の試行や投げ方の影響なども確かめる必要があります。
TAKEAWAYS · 振り返る
ここまでの学び
- ヒッグス粒子は短時間で別の粒子へ変わるため、生じた粒子のエネルギーや方向から元の質量を調べます。
- 多くの衝突の記録を、別の反応で予想される背景と比べ、複数の方法や実験でも確かめました。
- 発見はヒッグス場の説明を支えます。ただし、身の回りの物質の質量のすべてをヒッグス場だけで説明するわけではありません。
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